暖かく清潔で静かな環境で、たらふく食べて飲んで寝て遊んで甘えているせいか、表情も日に日に柔らかくなってきています。
それにしても、この子、ちょっと信じがたいほどの甘えん坊さんです。フレンドリーな犬だとは聞いていたけど、こんなにデレデレな子だとは・・・。
私がピットブルを一時預かると言ったとき、うちの夫は、ピットブルという犬種名を聞くやいなや、世間一般にありがちの偏見丸出しにして、
「ピットブルなんて危険じゃないのか」
「噛みつかれたら確実に死ぬぞ」
「生まれつき獰猛かもしれないぞ」
「プリちゃんとフランキーが怪我したらどうするんだ」
と、わーわーぎゃーぎゃー言ってたくせに、いまでは自分からべたべたとズーランダーに抱き付いては、
He's the BIGGEST MUSH!
と言っています(笑)。mush というのは、英語で「べろんべろんに甘えん坊」のことです。
私が横になると、かならずこうして、ぴったり添い寝をして、くっつきたがります。 |
いまでは、ズーランダーがプリとフラを攻撃することより、プリとフラが自分達の領域を侵害されたと思って、逆に防衛本能発揮して、吠えかかったり襲い掛かったりしないだろうか・・・ということのほうが、より心配になってきました。
ズーランダーが我が家に来てからすでに2週間近くが経つわけですが、プリとフラの2頭と、ズーは、実は、『正式ご対面』をいまだ果たしていません。
ときどき互いに顔を見たり、少し距離を置いて一緒に散歩したりしいるので、プリとフラは、「見慣れないヤツがいる」と意識はしているのですが、まだ完全に"群れ(Pack)の一員"としてズーランダーを紹介されていません。
ズーランダーは基本的に、自宅内にいるときは、わたしの自室の中で過ごしているようなものです。
なぜすぐに一緒に遊ばせなかったか―。
その理由は、ズーランダーは、保健所にいる間に、通称『Kennnel Cough』という犬がかかる悪性の風邪にかかってしまっていたからなのです。
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通称『Kennel Cough』と呼ばれているのは、「Bordetella bronchiseptica : ボルデテラ・ブロンキセプティカ」というバクテリアが原因で犬などの動物がかかる急性気管支炎のことです。息するたびにゼイゼイという雑音(wheezingといいます)が混じり、ときどき、大きなクシャミをしたり、ゲホンゲホンと咳をするのです。この段階で抗生物質等を投与するなどして治癒をこころみますが、環境次第では肺炎に悪化することもある、怖い病気です。
肺炎に至ってしまうと、人間と同じで、大変な治療が必要になります。この Bordetella bronchiseptica というバクテリアは人間には感染しないそうですが、犬同士では非常に感染力が強く、治療も大変高価につくため、罹患した犬は完治するまで健康な犬からは隔離する必要があるのです。
想像するに難くないと思いますが、保健所のような、最高に清潔とはいえない場所で、多くの犬が詰め込まれている環境ですと、たとえ最初は健康な犬でもバクテリアに感染し、気管支炎の症状を示し出すのが常、と言われています。
ズーランダーの場合、保護され市のアニマルコントロールセンターに収容された1月6日の最初の時点では、痩せぎすだったものの健康という見立てをもらっていました。しかし、マイナス8℃という厳寒の日に捨てられ放置されてたことも影響したのでしょうか、1月12日の医療検診では、担当獣医が「Kennnel Coughの症状あり、投薬」と記録しています。
下は、保健所で殺処分になる可能性の高い犬を紹介するフェースブックサイト「Urgent Death Row Dogs」に掲載されたズーランダーのページです。ここに、1月12日付の医療情報(Medical Information )として、こう書かれていました。
nasal ocular discharge sneezing marks on kennel coughing heard A:kennel cough as per Dr 1009 setting up on TX of 2 Tab of doxycycline SID for 10 days start: 1-13 end: 1-22 recheck: 1/20
医師番号1009の検診、鼻水、くしゃみ、ケンネルコフの症状、
doxycyclineを処方、1月13日から1月22日まで10日間2錠づつ投薬、1月20日に再検査
ズーランダーは気管支敗血症の菌を移された犬。その他にも、いろんな菌を持ってるかもしれない。
我が家のプリシラとフランキーはもちろん健康そのもので、ズーランダーから病気を移されたくないということで、我が家に来てから最初の10日間ほどは、完全隔離していました。
わたしも夫も、ズーランダーを触るたびに、他の2頭を触る前に必ず殺菌力あるハンドソープで手を洗い、彼の餌や水に使用したボウルもお湯と殺菌性ある食器洗剤で他の食器と別にして洗い、決してプリとフラの触るものに触れさせないように、気を配りました。
用を足すためにズーを外に連れ出すときも、まずはプリとフラを別室に閉じ込め、それからガレージを通過させて外に連れ出しました。プリとフラは、なぜ何度も自分らが部屋に閉じ込められなくちゃならないのか、納得いかないようでしたが、全員肺炎にでもなったらエライことになるので、念には念を入れました。
2週間ほど前、我が家に到着したばかりのとき、ズーランダーの呼吸は明らかに「ゼイゼイ」という雑音がしていて、気管支炎を患っているのは明らかでした。しかし幸いにも、彼の食欲はまったく落ちることがなく、ごはんのたびにモリモリ食べて、薬のおかげで徐々に回復してゆくのが手に取るように私にはわかりました。
この病気が進行すると、食欲減退という症状が顕著に出るそうなのです。
そして、そこまで症状が進んでしまうと、保健所という場所では、手厚い看護をしてあげることが困難になってきます。なぜなら、ニューヨークの野良犬収容所には、毎日、次から次へと新しい野良犬が捕まって送られてくるからです。
つまり・・・
Kennel Coughにかかりやすい環境に置かれ、たとえ健康な犬でも、そこに長く留まれば感染症にかかってしまう可能性が高いという悪循環。そして、病気を移された犬を長く看護してあげる手間ヒマもおカネも、そこにはない。施設内にそれ以上感染を拡大させないためにも、感染して症状の回復しない犬は、そのままそこに置いておくことはできない、むしろできるだけ早くいなくなったほうがよい。
上述したように、記録によると、ズーランダーは、1月22日まで投薬して様子を見よう、という獣医師の判断でした。
でも、覚えていますか?この日記の2回目に書いたように、彼は1月15日には、殺処分リストに載ってしまったんです。
つまり・・・
Kennel Coughにかかってしまう、そのこと自体が、保健所のような場所では、「死刑宣告を受けるのに十分な理由になる」という意味なのです。
(続く)